札幌高等裁判所 昭和48年(ラ)38号 決定 1974年1月23日
抗告人
別紙(一)抗告人目録記載のとおり
右代理人弁護士
別紙(二)代理人目録記載のとおり
相手方
北海道電力株式会社
右代表者
岩本常次
右代理人弁護士
別紙(三)代理人目録記載のとおり
右当事者間の札幌地方裁判所昭和四八年(モ)第八二四号訴訟救助申立事件について、同裁判所が昭和四八年九月一〇日になした決定に対し、抗告人らから適法な即時抗告の申立てがあつたので、次のとおり決定する。
主文
原決定を次のとおり変更する。
札幌地方裁判所昭和四七年(ワ)第九二九号火力発電所建設禁止請求事件につき、
抗告人舟迫強に対し、別表(四)記載の未貼付訴状印紙額のうち三一、九八一円相当分およびその他の各訴訟費用のうちその一〇分の九相当分の納付について訴訟上の救助を付与する。
抗告人上村松義に対し、別表(四)記載の未貼付訴状印紙額のうち一三四、七五五円相当分およびその他の各訴訟費用のうち一〇分の九相当分の納付について訴訟上の救助を付与する。
抗告人古川潤一郎に対し、別表(四)記載の未貼付訴状印紙額のうち九、二六三円相当分およびその他の各訴訟費用のうち五分の一相当分の納付について訴訟上の救助を付与する。
抗告人斉藤稔に対し、別表(四)記載の未貼付訴状印紙額のうち三、五〇〇円相当分およびその他の各訴訟費用のうち二分の一相当分の納付について訴訟上の救助を付与する。その余の抗告人らに対し、訴訟上の救助(別表(四)記載の未貼付訴状印紙額を含む。)を付与する。
理由
第一抗告人らは、「原決定を取り消す。抗告人らに対し訴訟上の救助を付与する。」との裁判を求め、その抗告理由は別紙(五)「抗告の理由」および「申立補充書」各記載のとおりである。
抗告人らは、要するに民訴法一一八条に基づき、本件に関する本案訴訟である主文掲記の事件の訴訟費用について訴訟上の救助の付与を求めるものであるが、当裁判所は当審において新たに提出された疎明資料についても参酌したうえ、抗告人らの右申立が同条に規定する要件に該当するか否かにつき、以下審案する。
第二疎明資料によると、前記本案訴訟はその主張自体からいつて全く理由がないものとは即断できず、抗告人らに勝訴の見込みがないとはいえない。
第三次に、抗告人らが民訴法一一八条に規定する「訴訟費用は支払う資力のない者」に該当するかについて判断する。
一右にいう「訴訟費用を支払う資力のない者」とは、社会通念上のいわゆる貧困者のみならず、資力の乏しい者にも訴訟による救済を受けさせようとする訴訟救助制度の趣旨から、訴訟費用を支払うときはその資産収入からみて自己およびその家族の生活に窮迫状態をもたらす者(以下、単に無資力者という。)をもその対象とし、その資力の有無は、当該訴訟において予想される訴訟費用の額をも考慮して、これと相対的に判定すべきであると考える。
二そこで、まず前記本案訴訟においてどの位の訴訟費用が予想されるかについて、以下検討する。
(一) 抗告人らが、別表(四)のとおり訴状に貼用すべき印紙額を負担していることは、本件記録から明らかである。
(二) 疎明資料によると、概算ではあるが、前記訴訟追行上、次のとおりの諸費用の支出が予想されることが一応認められる。
(1) 抗告人らが主張する本州各地の既設火力発電所のうち三ケ所の発電所および周辺の公害被害状況についての検証費用として、合計約三、〇〇〇、〇〇〇円。
(2) 伊達地方において漁業、農作物および一般環境の状況につき、時期を異にして少くとも今後三回予定される現地検証の費用として、合計約三六〇、〇〇〇円。
(3) ①現地気象調査 ②現地拡散実験 ③風洞実験 ④大気汚染の土壌および農作物に対する影響 ⑤噴火湾の海況調査 ⑥温排水の拡散および水産資源に対する影響についての各鑑定費用として、それぞれ一件につき少くとも三、〇〇〇、〇〇〇円。
(4) 証拠書類作成費用として、書証コピー作成費用合計一、三二〇、〇〇〇円、取寄申請にかかる四日市公害裁判の記録中、抗告人側援用部分のコピー費用合計九九〇、〇〇〇円。
三ところで、抗告人のうち(46)吉村俊幸、(47)田中義昌、(48)乗久敏彦、(49)福谷粂吉、(50)南部忠夫、(51)正木洋、(52)斉藤幸雄、(53)高橋真一、(55)帆江勇、(56)中村晃を除くその余の者は、いずれも前記本案訴訟における民訴法四七条所定の選定当事者である。
そして、選定当事者制度は、共同の利益を有する多数者が特定の訴訟につき原告または被告とならざるをえない場合において、訴訟を単純化しその円滑な追行を期するため、このような多数者(選定者)の中から選定された訴訟追行権者(選定当事者)に訴訟実施権の一切を委ね、爾後その者をその訴訟の当事者としてこれを追行させようとするもので、いわゆる任意的訴訟担当の一場合である。したがつて、訴訟上の救助について抗告人らの資力の有無を判定するに当つては、選定当事者であるこれら抗告人らの資力のみを基準とすべきでなく、実質上の当事者である各選定者の資力をも基準としなければならないというべきである。
四なお、抗告人らは、前記本案訴訟は、その個人的財産の保全のためではなく、いわば地区住民を代表して提起しているものであるとして、この種事件の特殊性を強調するとともに、相手方が年間七〇億円の純利益をあげている大企業である旨主張するけれども、このような事件であるからといつて、現行法上特に通常の事件と異にした解釈をしなければならない根拠は見い出し難く、また訴訟救助制度は相手方の資力に比べて相対的に劣る者に対し経済的援助を与えるものではないから、相手方の資力如何によりその結論が左右されるものでもない。したがつて、抗告人らの右主張はいずれも採用できない。
五そこで、以下抗告人らおよび各選定者らにつきそれぞれ個別的属人的にその収入等を検討する。
(一) 疎明資料によると、選定者小野俊雄、抗告人(38)上村松義は伊達市長和町において、選定者前川紀は有珠郡壮瞥町においていずれも農業を営む者であるところ、昭和四七年一月一日から同一二月三一日まで一年間の農業所得は、小野俊雄が一三、二〇七、二二八円、上村松義が三三、五八九、二一六円、前川紀が二〇、三七九、九九二円であることが一応認められる。そうすると、右年収のうちに土地の売買等によるいわゆる一時所得とみられるものが含まれている場合は格別、このような特段の事情のないかぎりは恒常的にこの程度の年収があるものと推定されるところ、右特段の事情は本件全疎明資料によるも認めることができない。
疎明資料によると、抗告人(48)斉藤稔、選定者中野俊彦はいずれも伊達市内における開業医であり、前掲年度の事業所得は、斉藤稔が一〇、〇四九、三六一円、中野俊彦が九、一〇二、四〇五円であることが一応認められる。
もつとも、疎明資料によると、以上の者の中には相当数の家族を扶養し幼少の子供を養育していることが窺われる者もあるけれども、右所得額自体からみて、わが国の現時点における国民の一般的生活水準に照らせば、その他の資産の有無について検討するまでもなく、またその家族構成如何にかかわらず、少くとも中等以上の生活を営んでいるものというべきであろう。したがつて、本案訴訟追行上予想しうる前掲訴訟費用額を考慮に入れても、なお、無資力者とは到底認めることができない。
(二) 疎明資料によると、抗告人(16)諏訪野楠蔵は伊達市向有珠町に居住し、同地区において漁業を営む者であるところ、前掲年度の漁業所得は二、三五四、七〇三円であり、家族として妻の外老令の母、幼少の子供三名を含む四名の子女を扶養していることが一応認められる。
以上の事実からすれば、右収入そのものから直ちにいわゆる貧困者ということはできないけれども、その家族構成に照せば、右収入の殆んどが自己またはその家族の必要生活費に費消せられ、余剰が殆んどないことが窺われる。
疎明資料によると、選定者上田末松は伊達市北黄金町に居住し、同地区において漁業を営む者であるところ、前掲年度の漁業所得は二、五六四、一〇〇円であり、家族として妻および長男夫婦、幼少の孫二名と家計を一にし、右長男夫婦の所得は僅少であるため、右収入をもつて自己ないしその家族五名の必要生活費をまかなっていることが一応認められる。
以上の事実からすれば、右収入から自己ないしその家族の必要生活費を費消しても、なおかつ、多少の余剰を生ずるとみるべき余地がないとはいえないが、右家族構成に加えて前記本案訴訟に必要と予想される訴訟費用額等を勘案すれば、その余剰の程度では結局本案訴訟の訴訟費用を十分に支払うことはできないといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、右両名についても一応無資力者として訴訟上の救助を与えるを相当とする。
(三) 疎明資料によると、(一)および(二)に掲記した抗告人および選定者らを除く抗告人および選定者らは、その殆んどが農、漁業を営む者およびその家族であるところ、右家族員の殆んどが無収入かそれに近い極めて少額の収入しか得ていないことが一応認められる。また、選定者林康雄、抗告人(55)帆江勇はいずれも成人に達している学生であることが認められるので、これらの者も一応無収入であると推定することができる。
更に、農、漁業を営む世帯主においてすら、その大多数の者が年間五〇〇、〇〇〇円ないし六〇〇、〇〇〇円程度の所得者であることが一応認められるところ、これらの者はその収入から自己の生活費を控除するだけでも余剰が全くなくなること計数上明らかである。
したがつて、以上の者については他の事情を考慮するまでもなく訴訟救助を付与すべき貧困者というべきである。
つぎに、疎明資料によると、農、漁業者のうち比較的所得が多いとみられる者およびその他の職業に従事している者についても年間一、二〇〇、〇〇〇円ないし一、八〇〇、〇〇〇円程度の所得を有するにすぎないことが一応認められ、これらの者についてはその収入から生活費等を控除したとき全く余剰がなくなるとは言い切れないとしても、前掲訴訟費用の予想額と対比しわが国の現時点における国民の一般的生活水準を考慮すれば、これら抗告人および選定者らについてもすべて無資力者といわざるを得ない。もつとも、上記農業所得者のうちには、宅地、田畑等の固定資産を所有していることの疎明のある者がいるけれども、これら固定資産は、その地目面積等からみて少くとも自己またはその家族の生活を維持するために必要なものや、これらの必要生活費を得るための生産手段となつているものであり、これを処分換金するときは右生活を害することが容易に窺われる。したがつて、このような固定資産である以上、これをもつて訴訟救助を付与すべきか否かについての判定基準とすべきではない。
第四そうすると、抗告人(37)舟迫強に対しては、同人は無資力者であるが、その選定者九名のうち無資力者と認められない小野俊雄の負担すべき別表(四)記載の未貼付訴状印紙額ならびに抗告人および選定者の総数で按分した一〇分の一の訴訟費用相当分を除き、抗告人(38)上村松義に対しては、同人は無資力者と認められないけれども、その選定者九名はすべて無資力者であるので、前記同様の計算方法により右抗告人の負担すべき費用部分を除き、抗告人(41)古川潤一郎に対しては、同人は無資力者であるが、その選定者四名のうち無資力者と認められない前川紀につき、前記同様の計算方法により同人の負担すべき費用部分を除き、抗告人(46)斉藤稔およびその選定者中野俊彦はいずれも無資力者と認められないけれども、他の選定者二名は無資力者であるので、前記同様の計算方法により右抗告人および選定者中野俊彦の負担すべき費用部分を除き、いずれも主文掲記のとおり部分的に訴訟上の救助を付与すべきである。
また、その余の抗告人らに対しては、抗告人も選定者もともに無資力者であるので別表(四)記載の未貼付訴状印紙額を含め訴訟上の救助を付与すべきである。
第五よつて、原決定を変更し、抗告人らに対し、前記のとおり訴訟上の救助を付与することとし、主文のとおり決定する。
(松村利智 長西英三 山崎末記)
(一)抗告人目録<略>
(二)抗告人ら代理人目録<略>
(三)相手方代理人目録<略>
(四)未貼付訴状印紙額表
(五)抗告理由
抗告の理由
一 原決定が本件申立を却下した理由は、要するに申立人らは本件訴訟についての諸費用を支払う資力がないとはいえないものである。しかして、当面必要とする追納すべき手数料の額(環境権及び人格権又は環境権に基づく妨害予妨請求権のみを主張するものはいずれも金一七五〇円であり、最多額のものは金七七、〇八〇円である。)は、申立人らの職業、収入等の個別的事情を斟酌したとしてもなお納付し得ない金額とは認められないとし、将来本件訴訟追行上鑑定、検証その他の諸費用を必要とすることは認めながら、その諸費用についての訴訟救助の付与については、その費用の具体的な必要が生じた時点において判定すれば足りるとするものである。
二 申立人らは本申立書において原決定の判断が不当である理由と、申立人らに訴訟救助を与えるべきであるとする根拠を述べ抗告裁判所の適正な判断をあおぐものである。
(1) 本件訴訟の特色。
本件訴訟は相手方が伊達市長和地区に重油専焼火力発電所の建設を計画し、実行に着手したことにより、伊達、有珠、室蘭地区住民が、環境を破壊され、人の健康、財産権が侵害されることは必至であるとして、右火力発電所の建設差止めを求めて提起した訴訟である。
従つて現実の被害は未発生であるが、被害の発生を未然に防止しようとするものである。申立人らの本訴において勝訴した場合、火力発電所の建設は差止められ伊達、有珠、室蘭地区の現在の良好な環境は、このまま維持されることとなり、関係地区住民の総べてがその勝訴の結果を享受することとなる。申立人らはいわばこれら地区住民を代表して本訴を提起し、維持遂行しているものである。
申立人らはその個人的財産の保全の為に本訴を提起しているものではない。
申立人らが本訴に於て主張しているのは環境権を主位的主張としているものであり、人格権、土地所有権、及び漁業権等を選択的に併合して主張しているが、これらは環境が破壊されることによつてこれらの権利にも侵害が及ぶという意味において主張しているものであり、これらの主張は従たるものであるに過ぎない。
従つて本件訴訟において申立人らに訴訟救助を与えるべきか否かを判断する場合、申立人らのこのような地位、目的を充分考慮に入れて判断されるべきであり、原決定の如く、公害予防訴訟であるからといつて、当然に救助が付与されるべきことにはならないとして、前記の如き申立人らの地位、目的を全く考慮に入れないことは、本件訴訟の特色を全く忘れたものというべきである。
(2) 訴訟救助制度について。
民訴一一八条は訴訟救助の要件として「訴訟費用を支払う資力なき者」及び「勝訴の見込なきに非ざるとき」、の二要件を規定している。
原決定は訴訟費用を支払う資力の有無についての判断を示しているが、「勝訴の見込なきに非ざるとき」という要件の有否については何ら判断を示していない(もつとも資力の点について資力がないとはいえないという判断を示したことにより、この点の判断を不要としたのか、又は理由第二項の最後で申立人らが勝訴すれば訴訟費用は原則として敗訴被告の負担に帰せしめられる、という理由を述べているところから、申立人らの勝訴の見込があると考えているか、いずれにしても判然としない)。本条が、憲法第三二条の裁判所において裁判を受ける権利を総べての国民に保障する為に規定されたものであることは明らかである。しかして前記二要件はこの制度が濫用されることを防止する為に設けられたものであることは一般に承認された見解である。そうとすればこの二要件は訴訟目的との相関関係においてその有否を判断されるべきである。即ち訴訟が純然たる個人的利益追求を目的とする場合には前記要件はある程度厳格に適用されるが、本件の如く、公害の未然予防を目的とし、関係住民のために提起されたもので公益追求を目的とする場合には前記二要件は相当ゆるやかに拡張して適用されるべきである。
原決定はこれらの点については全く考慮することなく個人別の環境権、人格権に基づく妨害予防請求権、所有土地の評価額並びに漁業純利益額を基準として申立人ら及び選定者合計二五五名について最低一七五〇円から最高七七、〇八〇円の間に於てその訴額を算定しいずれもその費用を支払う資力はあるものとし、本訴追行上必要とされる鑑定、検証その他の諸費用については判断の対象より除外してしまつている。
しかし、訴訟上の救助が、一件訴訟を遂行するうえで必要とされる費用の全体に対して与えられるものであることは当然であり、原決定の如く、訴提起の手数料、鑑定、証人検証の費用の個々に対して与えられるべきものでないことは明らかである。
原決定は証拠調の必要、及びその費用等については現段階においては概括的にすら把握できないというが、本訴の遂行上、鑑定、検証、証人等を必要とすることは本訴の性質上明らかであり、これらの費用の概算は現在において充分明らかになし得るところである。
又各申立人個々人について、所有土地の評価額、漁業純利益額を基準とすることは、申立人らが本訴において求めているのが伊達、有珠、室蘭地区の良好な環境を保全するものであるという訴訟の第一次的な目的を忘れた議論であり、又勝訴の場合は相手方の負担となるから申立人らには救助の必要がないという理由も本末を転倒した議論というべきである。
(3) 申立人らに訴訟救助を必要とする根拠。
(イ) 民訴一一八条所定の要件については本件の如き公害予防請求訴訟においては極めてゆるやかにその適用を考えるべきであることは前述したとおりである。
そこで先ず「勝訴の見込なきに非ざるとき」の要件について考えると、現在我が国の至るところで発生している公害訴訟において、被害者である原告らが勝訴の判決を受けていることは顕著な事実である。火力発電所の建設によつて公害が発生しないことは現在の技術水準ではあり得ないことであり、煙突より放出された有害物質が大気を汚染し、タービン冷却用の温排水が海洋を汚濁することは明白な事実である。申立人らはこれらの被害の発生前にその結果を未然に防止しようとするものであるので、その証明の難易はともかくとして申立人らの勝訴の見込があることは明白である。
(ロ) つぎに「訴訟費用を支払う資力なき者」という要件に申立人らが該当するか否かであるが、この要件は本訴における訴訟費用をどのように考えるかで結論は大きく左右される。
先ず、原決定の如く、訴提起の手数料、鑑定、検証、証人の費用等について個々的に考慮すべきでないことは前述したとおりであり、本件訴訟を全体として見て、どれだけの費用を必要とするかを概算すべきである。今その概算額を示すと次のとおりである。
検証費用 本州火力(富山、四日市、尾鷲、渥美等)の内三カ所三日として一日一〇〇万円(予納金の外原告弁護士六名原告若干名の合計)として合計三〇〇万円。
外に伊達地方の検証を三回は必要とするので一回一二万円として三六万円。
検証費用合計三三六万円。
証人費用 二〇人を必要とするので(学識経験者一〇名、現地経験者一〇名)一人四万円として八〇万円。
事務経費 現在まで一年二カ月を経過したが月平均五万円を必要としたので今後二ケ年は審理期間を要するものとみられるので一八〇万円を必要とする。
専従事務員の給料 審理期間三ケ年を必要として年間一〇〇万円を要するので合計三〇〇万円を要する。
訴訟準備及び法廷に出頭するための交通費
伊達から札幌までの交通費往復一、六六〇円(運賃のみ)
会議打合せ 1660×5(人)×52×3≒43万円
公判出頭費 1660×50(人)×18≒149万円
代理人の現地出張費 1660×6×36≒35万円
合計 225万円
日当及びこれによる収入減は右と同額の二二五万円が見込まれる。
鑑定費用 鑑定費用としては訴訟の状況により証明の必要によつては数千万円が必要であると思われる。(ちなみに伊達市が日本水産資源保護協会に委託してなした漁業影響調査費用は一、〇〇〇万円を要した。)
以上により鑑定費用を除外した費用として一、三四六万円を要するものであり、外に訴状の印紙代と鑑定費用として数千万円を要するものである。
(なお本案訴訟において既に裁判所は申立人ら個々について訴額を算定し、総額八七四、〇一二円の印紙の追貼を命じており、これは裁判所の決定であるため申立人らはこの決定に対し、即時抗告をする方途を閉ざされており、追貼命令に応じなければ本訴を却下される苦境に立たされてしまつた。貴裁判所において早急に訴訟救助を与える旨の裁判を受けなければ申立人らは本訴遂行上重大な支障を生ずることとなる。)
この場合訴額の算定については環境権が主位的請求であり、環境権を基準とするべきであるが、環境権は本件申立人らを含む原告全員について一個であり、その価額は算定不能である。人格権、土地所有権、占有権漁業権等は従たる請求であり、又、その侵害の程度範囲等を現時点において算定することは不可能であるうえ、これらの侵害は環境破壊の結果生ずるに過ぎないものであるから本訴においては環境権の訴訟物に包含され、その訴訟を算定することも必要でないものである。強いてその算定をしようとしても算定不能となるより外にないものである。
本件訴訟における費用の概算額は前述のとおりであるが申立人らはいずれも伊達、有珠地方で農業、漁業を営むものが大部分であり、その収益も年間二〇万円乃至一〇〇万円に過ぎないものでありその生活を維持するに精一杯の収入しか得ていないものであり、他に無職者、学生でその収入は全くないもので親族よりの援助によつて生活しているものである。
従つてこれらの費用を申立人らが個人として負担した場合、自己及び同居の親族の生活上重大な支障を来たし、費用の支払能力がないために本件訴訟を断念せざるを得ないような状態に陥る恐れが顕著である。申立人らは本件訴訟のみではなく地域の環境を保全するため日夜研究、討論、集会を重ねその労力時間の消費は金銭的に見積もれば莫大な金額になりこのため既に家計の収入減をも招来しているうえに、これらの訴訟費用を負担することは既にその能力を超えることとなることは明白である。
本件の如き訴訟における訴訟費用を考える場合、これらの点をも斟酌するべきである。
又申立人らが、かかる理由で本件訴訟を断念せざるを得ないとすればそれは憲法三二条の裁判を受ける権利を奪うこととなり、民訴一一八条の立法趣旨に反する結果となる。
原決定が申立人らのうち、環境権、人格権のみを主張する者については手数料額はいずれも一七五〇円に過ぎないとして本件訴訟救助の申立を却下したのは、これらの観点よりみれば著しく不当であるというべきである。
本件訴訟の目的、本件訴訟における申立人らの地位本件訴訟において必要とする費用との相関関係において申立人らの資力を考察した場合、申立人らが「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当することは明白であるというべきである。
三 以上のとおり申立人らは民訴一一八条の訴訟救助付与の要件を総べて具備しており、救助を与えられて然るべきであるが本案訴訟において既に印紙の追貼を命じられ、その費用の捻出に苦慮しているものであるから御庁に於て至急訴訟救助の裁判を与えられたく特に付言致します。(昭和四八年九月二八日次回口頭弁論の予定につき、公判審理に支障のないように処理して戴きたくお願い致します)
なお訴訟救助の対象となる費用の範囲及び救助の要否につき名古屋高等裁判所金沢支部昭和四六年二月八日決定判例時報六二九号二一頁、大阪高等裁判所昭和四六年三月三〇日決定同誌六二九号二一頁。
申立補充書
一 申立人らは申立書において、今後本件訴訟を遂行するについての費用の概算額を述べたが、右のほかになおつぎのとおりの費用を必要とするので、補充する。
(1) 証人調書謄写費用(三〇万円)
開廷数を二〇回とし、一回の枚数二五〇枚を二部(最低)謄写する。現在謄写費用は一枚につき三〇円である。
30円×250枚×2部×20回
=300,000円
(2) 証拠書証作成費用(一三二万円)
本件訴訟は証拠の部類を総論、大気汚染、海洋汚染、騒音その他、雑の五部門門に分類して提出することになつており、各部門毎に原本のコピーを裁判所所用四冊、相手方用一冊を必要とする。(申立人側の最低手持分として弁護士用六冊を加算する)各部門毎の原本の枚数を、漁業被害に関する仮処分事件(昭和四八年(ヨ)第二七〇号、公有水面埋立禁止仮処分命令申請事件)を例にとると約四〇〇枚を必要とした。今仮に各部門四〇〇枚(総論、大気汚染部門等はこの二〜三倍は必要になると考えられるが)として計算すると
30円×400枚×5部門×11部
=660,000円
になる。相手方提出の書証をコピーするとすると書証コピーは最低弁護士手持分六部と作成部数の点では減するが、分量が圧倒的に多いと考えられるのでほぼこれと同額の費用が必要になる
660,000円×2=1,320,000円
二 訴訟救助の要件である「訴訟費用を支払う資力なき者」とは、必ずしも無収入で生活扶助を受けている者という意味ではない。具体的事件につき、国が訴訟費用の全部または一部を立替え支弁するのを相当する程度の貧困者という意味であり、右に該当する者であるかどうかの判定にあたつては、現時点における国民の一般的生活水準を考え、これと申立人らの資産収入を対比し、さらに本案事件の性質、内容、相手方の資力等を考慮すべきである。(東京地裁、四八・二・二三、民二三部決定、判時七〇九号六〇頁)。又、訴訟費用の範囲は必ずしも民事訴訟費用等に関する法律所定の費用に限定されるものではなく、当然に出捐を必要とすることが推測される調査研究費、弁護士等をも含むと解すべきである。(大阪地裁、四八・三・二六、民七部決定、判時七〇九号六二頁)。
本件における相手方である被告北電は年間七〇億円の純利益をあげている大企業である。申立人らは大部分の者が年間純収入二〇万円ないし一〇〇万円の零細農漁民・一般住民である。相手方は本事件の遂行に莫大な費用を要するとしても何ら痛痒を感じないのに反し、申立人らがその費用を総べて負担することとなると本件訴訟の遂行を断念せざるを得なくなるるおそれがある。これは憲法第三二条(裁判を受ける権利)、第一四条(法の下の平等)の理念に反する結果となる。
申立人らは私利私欲のために本件訴訟を遂行しているものではなく、地域住民の生活と環境を守るための公害予防のための闘いとして本件訴訟を遂行しているものである。原決定は本件訴訟の特質・本件訴訟遂行のための費用、相手方との資力の比較等については全く考慮せず、申立却下の決定をなしたが、御庁においては、これらの諸点を考慮し、申立人らに訴訟救助付与の決定を相成りたく本抗告に及んだ次第であります。
決定
抗告人 鳴海元了
外四七名
右訴訟代理人弁護士 江沢正良
<外五名>
相手方 北海道電力株式会社
右代表者 岩本常次
右訴訟代理人弁護士 村松俊夫
<外六名>
右当事者間の昭和四八年(ラ)第三八号訴訟救助申立却下決定に対する抗告事件につき、昭和四九年一月二三日当裁判所がした決定に明白な誤謬があるから、職権により、次のとおり決定する。
主文
右決定二枚目表一、二行目(主文第一一、一二行目)に「五分の一」とあるのを「五分の四」と更正する。
昭和四九年一月二四日
(松村利智 長西英三 山崎末記)